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「Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜」レビュー

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5月のIndie Worldで紹介映像を見てから気になっていた本作。生き生きと動くアニメーションに色鮮やかなグラフィックが特徴の絵画がテーマの謎解きアドベンチャーである。絵を描くという行為を通じてどのような物語を体験できるのか非常に興味を抱いた。その期待に応える出来であったのかレビューしていきたい。

 

「Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜」は台湾のゲーム開発スタジオ「Silver Lining Studio」が開発し、「Akupara Games」と「アカツキ」が販売を行っている。

2021年8月25日にPC、iOSAndroid向けに発売され、2022年6月2日にNintendo SwitchPlayStation 4向けにリリースされた。コンソール版の配信に合わせて本編の裏側を辿る新章が追加されている。

ローカライズに関してはムービー中のセリフや、主人公のメモの細部に至るまで非常に丁寧に訳されており違和感はなかった。

本編はチャプター1からチャプター6の全6章仕立てで、新章を含めたプレイ時間は1時間半程度であった。

ちなみに私はNintendo Switch版にてプレイを行ったが、テレビモードではなく携帯モードでの体験の方が優れていた。プレイの際は後述する注意書きの通りヘッドホンを付けることと、個人的にタッチペンを使用するのがおすすめである。

臨場感もさることながら、タッチペンを使用することで作中の主人公が鉛筆や絵筆を振るう感覚をダイレクトに味わえ、より一層作品世界に入り込めるからだ。

主人公めちゃめちゃ癖字ですね。

 

 

ある女性画家がニューヨークの公募展に提出する作品を完成させるため、缶詰め作業で油絵を描いている。そのさなか隣に住んでいる無口な老画家の描いているキャンバスに目を向けると不思議と懐かしさを覚える。そしてなんとその絵が自室に飾られている未完成の絵にそっくりであることに気付くという導入から始まる物語。

本作の特徴は画家というテーマを表現するために用いられた色彩豊かなグラフィックだろう。1時間半という短いプレイ時間の随所に散りばめられている宮崎駿監督やスタジオジブリ作品から影響を受けたと開発陣が語る、温かみのあるセル画風のビジュアルが目を引く。

背景には画材が所狭しと並べられ、主人公の絵画へのひた向きさや意外と大雑把そうな性格なども窺い知ることができる。

他の謎解きアドベンチャーと一線を画す圧倒的な表現は生活感を強調し、キャラクターが作品の中で生きているということを上手く表現している。

 

 

システムはオーソドックスなポイント&クリックのアドベンチャーゲームであり、気になった箇所を画面上で選ぶことで物語が進行していく。主人公は自室の中を好きに移動することは出来ないが、360度パノラマで自由に視点を動かし周囲を見渡せる。

チュートリアルは無いが序盤は選ぶべき場所が白く点滅したり、主人公の独り言という形でプレイヤーを誘導するため迷うことはない。

プレイヤーが干渉できるオブジェクトは、背景から浮き出るように明るく縁取りされている。そのためポイント&クリックのゲームでありがちな、そもそも選べるオブジェクトを見つけられずに背景を連打するということにはならない。



主人公は絵画制作に取り組む上で、日々のルーティンを設定している。各章のはじめに毎回カセットテーププレーヤーに入れるカセットテープを手に取りBGMを流す。次にトースターにパンをセットし、フライパンで目玉焼きを焼く。そしてノートパソコンで公募展に送るためのレジュメを作成し、最後に豆から挽いたコーヒーで一息つく。

この一連の操作は凝っており、例えばカセットテーププレーヤーを操作するなら、まずイジェクトボタンを押してケースを開く。次にカセットテープをドラッグしケースを閉めて再生ボタンを押すという手順が必要となる。

その一手間の消化にプレイヤーが介入することにより、ゲームが進むにつれ主人公とプレイヤーが徐々に一体化していく。そして絵画を完成させるという終わりの見えない果てしなさや、日々の生活の単調さをプレイヤー自身も実感でき、自分も画家になったような感覚を味わわせることに成功している。

スペースキーだけ連打しても内容が入力されるのが少し面白い。

 

 

謎解きパートは隣に住んでいる老画家の家を覗いた時に見えた絵画を描き写したスケッチブックがヒントとなる。このスケッチを取る際やそれを元にした油絵制作は前述のルーティンのようにプレイヤーがゲームを操作して行う。

実際に描く必要はなくアナログスティックを動かしたり、画面をなぞるだけで精巧に出来上がる。そのため私のように絵心がないプレイヤーも心配する事はない。

自室に掛けられた未完成の絵画にスケッチブックと見比べて足りない色を塗る。そして絵画を完成させるとメモが更新されるため、部屋の隅に転がっている仕掛け箱を手元のメモを頼りに解く。すると新しい色の絵の具が手に入り、公募展に提出する油絵に取り掛かれるというのが主な流れだ。



また、本作は起動時に「ヘッドホンでプレイすることをおすすめします」と注意書きが出るようにサウンドにも非常に凝っている。油絵を描く時は絵筆がキャンバスに擦れる音や、カーテンが風に揺れる音。はたまたラジカセでかけたBGMのカセットテープ独特の心地よいノイズなどここまで再現するのかと驚くほどだ。耳から感じられる手触り感が本作の雰囲気作りをより深め、世界を色づかせている。



ここまで書くと完全無欠の短編アドベンチャーゲームに思えるが惜しい要素もある。それは謎解き部分だ。本作の謎解きはストーリーに付随する装置であり主体ではない。

難易度も非常に簡単で気になる箇所を調べれば手帳に項目が追加される。それを元に考えれば謎解きアドベンチャーゲームの初心者でも詰まることなくクリアできるだろう。

スケッチブックと未完成の絵画を見比べて足りない色を足すというのも、絵画という作品のテーマに沿った手段であると同時に、プレイヤーを作品にのめり込ませるインタラクティブな要素である。

そして、見事未完成の絵を完成させればその絵画に描かれた場面が立ち現われる。そこで絵画の謎にまつわる一組の男女の交流を垣間見ることが出来る。謎解きとストーリー進行が密接な関係であり、没入感を阻害されることなく取り組むことが出来る。

それと比べると仕掛け箱を解いて新しい色の絵の具を手に入れるというのはいささか違和感がある。

メモを見ながらパネルを操作しひまわりの葉の色を変えたり、タイルの色を変えるという場面で描かれているのは、後にシナリオで意味があるという事が分かるが、絵画がテーマという点からは乖離している。



物語の後半になるとさらに本格的な謎解き要素が登場する。例えば、日々のルーティンで使用している物品に矢印が現れ、その矢印の順番に沿って紙をなぞるとノートパソコンのパスワードの数字が入手できるというものだ。

 紙をなぞるのは確かにスケッチに使っていた鉛筆を使用するが、もはや絵画とは何も関係が無い。パスワードをなぜその数字にしたのかという謎は物語の最後に明かされるが、これでは絵画と関係のない普通の謎解きゲームと同じである。

謎解きは絵画制作にまつわるものだけで統一した方がプレイヤーも直感的な操作で分かりやすく、謎解きパートの軸もぶれなかっただろう。



本作のストーリーは正直なところ凡庸である。凝った物語ではなく、序盤から結末を予想出来る伏線というにはあからさまなシナリオ構成だ。プレイしていてこうだろうと思ったことがそのまま映し出される。ただしそれが悪いとは言わない。

あまりに練り過ぎたシナリオはプレイヤーの作品への感情を置いてきぼりにしてしまうことがある。あの展開はなんだったのだと結末に浸れないことも、今までプレイしてきたゲームの中にもあった。謎が謎を呼ぶミステリー作品ならまだしも本作はそうではない。

ビジュアル表現がウリのシンプルで悲しくも心温まるストーリー。「Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜」はそういった作品である。物語の最後に美しいグラフィックとアニメーションを駆使した演出で今まで積み重ねてきた謎が明かされる結末は、ありきたりながらも心が震えた。