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魅力が薄い冗長で説教くさい物語と、ブラッシュアップさせた結果面白さも削ぎ落とされたバトルシステム『ゼノブレイド3』クリアレビュー

 

はじめに

7月29日にNintendo Switch向けに発売された『ゼノブレイド3』について、1回エンディングを見て放置していたクリア後の追加クエスト含めた全クエストの消化や、隠しキャラクターやDLCキャラクターのイノ関連の一連のストーリーなどのやりこみ要素が、130時間プレイしてようやく終わったのでレビューを書いていく。

まずはじめに私はゼノブレイドシリーズで一番面白く感じなかった。いわゆる「not for me」である。過去作から遊びやすくブラッシュアップされ、1つ1つのクオリティは高かったが、プレイしていて楽しくない時間が多かったのが原因だ。

シリーズは全作品を遊んでいるがナンバリング作品と比較するなら、物語の面白さやシステムとシナリオの噛み合いでは『ゼノブレイド1』に、バトルの面白さでは『ゼノブレイド2』に及ばなかったと感じる。

 


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ゼノブレイドシリーズとは

『ゼノブレイド』は2010年に任天堂よりWii向けに発売されたゲームである。開発はモノリスソフトであり、総監督・原案は『ゼノギアス』や「ゼノサーガ」シリーズで知られる高橋哲哉氏である。 『ゼノブレイド』は発売後好評を博し、その後は派生作である『ゼノブレイドクロス』やナンバリング続編の『ゼノブレイド2』もリリースされ、JRPGというジャンルの代表作ともいえるまでに急成長したIPだ。 ゼノブレイドを冠したシリーズを合わせて「ゼノブレイド」シリーズと呼称されたり、共通の設定が存在する高橋哲哉氏が関わった過去作である『ゼノギアス』「ゼノサーガ」シリーズもまとめて「ゼノ」シリーズと呼ばれたりすることが多い。そして2022年7月29日に最新作『ゼノブレイド3』が発売された。

 

過酷な世界で描かれる陳腐なシナリオ

本作は「アイオニオン」と呼ばれる世界で、高度な機械技術が発達した「ケヴェス」、エーテルと呼ばれる粒子を操る技術に長けた「アグヌス」の2つの国家に分かれ戦争を繰り返すという舞台だ。アイオニオンのコロニーに配属される兵士たちは機械で培養されて10歳の身体で産まれ、20歳までの10年の寿命をまっとうし自らの生命エネルギーの源である「命の火時計」を満たすために、敵兵士の命を奪っている過酷な世界設定になっている。20歳となり「成人の儀」を受けることが栄誉とされているが、ほとんどの兵士は戦場で命を散らし、「おくりびと」の奏でる笛の音色により空へと還っていく。

ある日任務で謎の高エネルギー反応の物体を追う2組の、ケヴェスのおくりびと「ノア」と「ランツ」、「ユーニ」、アグヌスのおくりびと「ミオ」と「セナ」、「タイオン」が出会うところから物語は始まる。2組は敵同士で出会い頭に戦うが、そこに「メビウス(執政官)」が乱入し生き残るために協力しあう。メビウスはアイオニオンを支配する存在で、その圧倒的な力で窮地に陥る。すると謎の高エネルギー体を輸送していた一味のリーダー「ゲルニカ」が「ウロボロスストーン」と呼ばれるその物体を解放する。するとノアとミオは合体し「ウロボロス」と呼ばれる巨人になっていた。ウロボロスの力でメビウスを退けるが、目をつけられ世界の敵となった2組はケヴェスとアグヌス両陣営から狙われる身となる。そしてゲルニカの「生き延びたいと願うなら大剣の突き立つ地「シティー」を目指せ」という言葉を頼りに旅立つという導入である。

『ゼノブレイド3』のシナリオの問題は必要であろう説明セリフが極端に少なく、抽象的な表現が非常に多い。「絆」、「希望」、「夢」、「現実」、「願い」、「届く」などのぼんやりとしたワードの応酬が繰り返され、ゲームを通して出来の良くない道徳の授業を受けさせられていた気分になる。

物語の説明セリフが少なくマクロな世界構造はフワフワとしているため、それを補う最低限の世界観を語るすべとして莫大な量のキャラクターの会話が用意されている。そのおかげでミクロな人間関係は濃密といえるほどに描かれており、通常のゲームであれば描かないであろう細かい反応やしぐさまで描く手法は、キャラクターへの感情移入を促す。ただその分クエストで関わる登場人物同士の言い合いや、行く先々で毎度同じウロボロスとただの兵士の違いを強調させる展開が多く、物語全体のテンポが悪く冗長で説教くさい。またボス戦でバトルで勝っていたとしてもシナリオでは負けたり苦戦していたりといった場合が非常に多く、カタルシスが薄く物語に爽快感がないのも問題の1つだと考える。

そして敵であるメビウスの魅力が絶無であり、そのほとんどが人々を搾取し自分の良いように使う、高笑いしがちな陳腐で安っぽいゲスとして描かれているテンプレ悪役ばかりだ。アルファベットに沿ってメビウスたちは用意されているが、ストーリー上でメインで描かれる数人を除いて、メビウスは合計20数人いたにも関わらずほとんど差異がなく全く印象に残っていない。それならば登場させる人数を絞り、エヌ・エム・ジェイ・アイ・ティーなどが担っていたメビウス側の視点を物語にもっと取り入れれば主人公たちの敵としての存在が立ったと思う。メビウス関連や各コロニーのクエストなどで全体的にプレイヤーの気分を悪くさせるだけのイベントが多く、少しならば人間の業や国家によって相容れない関係が強調され、より世界観に没入させ得る装置になるが、何回も繰り返させるためプレイヤーもその展開に飽きるし、ゲーム全体が陰鬱ですっきりしない。制作陣はプレイヤーを不快にさせれば、その分物語がシリアスで重厚になると勘違いしていないだろうか。それはただただゲームへの印象が悪くなるだけである。シナリオやイベントの演出や描写に問題があったように思う。

 

システムはブラッシュアップされたが、シナリオと噛み合っていない

「ゼノブレイド」シリーズの魅力の1つは広大な大地を探索することだろう。本作も非常に多くのロケーションを楽しむことが出来る。そしてシリーズ恒例であるが膨大な寄り道要素も用意されている。コロニー解放やそれに伴うヒーローの加入といった要素が多く存在する。豊富なサブクエストやヒーローを強化する覚醒クエストもあり遊んでも遊びきれないほどだろう。寄り道要素は使用できるジョブが増えるという実利的な側面と、世界観やキャラクター描写を深く掘り下げるという体験的な側面から寄り道が推奨されているゲームデザインだ。

システム面は過去作と比べ遊びやすくブラッシュアップされている。『ゼノブレイド2』では作業感が強いキズナリング埋めや、スキルが無いとまともに探索やクエストが出来ないフィールドスキル、複雑すぎるバトルシステムをほとんどチュートリアルせずにプレイしなければならなかった。お世辞にもシステム面が洗練されているとは言えなかったシステムが『ゼノブレイド3』では驚くほどの進化が感じられる。

フィールド画面でのショートカット機能が充実しており、1~2回ボタンを押すだけでほぼ全ての画面に変移を行える。そのほかにもTIPSがいつでも見れたり、バトルで不安な部分を訓練機能で練習できたりする。「絶対にシステムを理解させてからゲームを進行させる」という製作陣の圧が伝わるほど、執拗と言えるまでにチュートリアルを充実させている。複雑なゲームシステムの仕様をきちんとプレイヤーに伝えようとしており、ユーザーフレンドリーな姿勢が見える。また、今までは逃げるしかなかった水中でもバトルができたり、コレクションアイテムが戦闘中でも入手できたりと従来作品の仕様から変更されたシステムもあり、その多くがプラスに働いている。

ただ、シナリオとシステムが噛み合っていない問題点がある。ミオの寿命が3ヶ月で尽きるという設定であるにも関わらず、前述した膨大な寄り道要素が存在することにより、そんな事している暇はないとプレイヤーは感じる。ファストトラベル地点同士をワープで移動できるなどの設定がないにも関わらず、1月かけて歩いてきた道のりを何度も往復する矛盾が生じている。ミオの命がもう少しで尽きそうというイベントの後に、ノンキに畑作りに何日も費やすという展開もプレイヤー次第ではできるためシナリオとシステムがチグハグだ。

例えば『ゼノブレイド1』では未来視というのがゲーム全体で扱われているが、プレイヤーが実際にバトルで何回も死の危険を乗り越えてきたからこそ、キャラクターの危機を防ぐために未来を変えるというシナリオの展開が無理なく描写されている。 また終盤でシュルクが未来を見れるのは、その未来が不確定のものではなく神の定めた運命であり、それを見せていただけというのが明かされる。それに対するシュルク達の「未来は誰にも分からない、未来は一人一人自分で切り開いていくもの」という結論は、未来を見て対処することに頼り切っていた『ゼノブレイド』のプレイヤーだからこそ刺さるアンチテーゼとしても機能しており、シナリオのテーマ性とシステムの描写が乖離していなかった。『ゼノブレイド3』では広大なマップを用意したのに、それと相反するシナリオ上の3ヶ月という期限を設けたのが裏目に出ている。

 

簡略化され面白さも削ぎ落とされたバトル

本作のバトルはフィールドからシームレスに繋がっており、バトル自体もプレイヤーが操作しなければオートアタックで通常攻撃が繰り出される。プレイヤーが介入できる部分は各ABXYボタンや方向キーで発動するアーツをタイミング良く使うことだ。アーツには敵の側面特効など攻撃の発動場所よって効果が変わるものもあり、位置取りやアーツ回しが重要な戦略的なバトルである。主人公たちが就くことができるジョブにより、アタッカー・ディフェンダー・ヒーラーというロールが用意されている。誰をどのジョブに割り振り、どのロールをどれだけパーティーに採用するかというかけひきの要素もある。戦闘中ウロボロスに変身して強力な技を仕掛けたり、チェインアタックで一気に敵の体力を削ることもできる。

ただ前述の通りバトルの楽しさは過去作には及ばなかったと考えている。『ゼノブレイド1』は戦闘中に敵からの強力な技を、未来視で確認して適切なモナドアーツを使って対処するという面白さがあった。『ゼノブレイド2』は本当に煩雑で無駄なシステムも多かったが、バトルの楽しさに関してはシリーズでも群を抜いていた。ドライバーコンボを順番に繋げていったり、ブレイドコンボを積み重ね大技を繰り出し、溜まった属性玉をチェインアタックで解放させたりという流れのシステムは、バトルへのプレイヤーに対するインタラクティブな仕掛けとして機能していた。どちらもプレイヤーがバトルへ積極的に関わるシステムを設けることで、長くなりがちな戦闘を飽きさせることなくプレイさせていた。

「ゼノブレイド」シリーズを根本から否定してしまうような言説になるが、本作のようなサブクエストが大量に存在する広大なオープンワールドライクなシステムと、RPG的な「レベル」という概念は相性が悪いと考える。「ゼノブレイド」シリーズは戦略的なバトルがウリの作品だが、サブクエストを繰り返していると必然的に主人公達のレベルが上がりすぎてバトルが簡単になってしまう問題点が存在する。ナンバリング過去作は前述の通りバトル中にプレイヤーが関われるインタラクティブな要素を用意していたためあまり気にならなかったが、『ゼノブレイド3』はあまりに戦闘が複雑だった『ゼノブレイド2』の反省かバトルシステムが簡略化されており、戦闘中ウロボロスに変身しても極論ボタン操作で使えるアーツが変化するだけである。

そうなるとやりこみ要素のユニークモンスターを除いて、本編ストーリー上でのバトルに戦略性がなくなり、ボスさえもオートアタック任せで勝ててしまう。例えば本編のストーリーやイベントは、FF14のように適宜適正レベルに調整されるレベルシンクを導入すれば終盤までダレることなく手汗握るバトルが楽しめただろう。

 

本記事で色々と書いたが『ゼノブレイド3』が本当にどうにもならないゲームなら、そもそも130時間もプレイしないので、アンビバレンスな気持ちを抱えている。ただ発売前に期待されていたハードルを越えられなかったというのが正直な感想だ。まずは2023年末までに配信予定のDLC「全く新たなオリジナルストーリー」を待ちつつ、モノリスソフトの次回作に期待したい。ゼノブレイドクロスの移植もできれば待っている。