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パフォーマンスに難はあるが、シナリオは歴代で一番面白い『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』クリアレビュー

『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』は、株式会社ポケモンより2022年11月18日に発売されたNintendo Switch向けタイトルだ。今年の1月28日にもシリーズのスピンオフタイトル『Pokémon LEGENDS アルセウス』が発売されたばかりであるが、本作は2019年11月発売の『ポケットモンスター ソード・シールド』以来となる本編シリーズ、いわゆる第9世代の作品となる。ちなみに私はポケモンはバージョン違いは除きシリーズ全てをクリアしている。

まず言いたいことは『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』はすでに話題になっている通り、ゲームのパフォーマンス面に大きな課題を抱えているが、シナリオとキャラクターと演出は文句なしに過去一で素晴らしい出来であった。

 

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『Pokémon LEGENDS アルセウス』の感想記事

 

ストーリーは32時間ほどでクリアできた。いつもポケモン本編シリーズは20時間強程度でクリアできていたため、いつも以上に時間がかかっている。これはオープンワールド化したことにより、探索がより濃い体験になったことを数字でも示しているだろう。

 

ポケモン本編シリーズをプレイするときには、いつも個人的な軽い縛りを設けており、

①旅パは新ポケモンだけで構成する。

②旅パのタイプは被らせない。

③伝説・準伝説は旅パにはいれない(今回ミライドンは外せないため許容する)

ということにしている。新しいシリーズでは新しく幅広いポケモンを使いたいというのが理由だ。また私はポケモンエンジョイ勢であり対戦ガチ勢ではないので、来るであろうDLCまでソフトを寝かせておく予定である。

 

学園青春モノという軸で展開された濃密なシナリオ

発売前はオープンワールド化したことにより、ストーリー部分が薄くなってしまわないかと心配していたが、実際にプレイしてみて全くの杞憂であることが分かった。まずオープンワールドといいつつ、レベルが変動するわけではなかったり、一部通行禁止エリアがあったりとゲームは半リニアで進行する。そして各地に散りばめたシナリオをアカデミーにまつわる「学園青春モノ」の3つのルートに絞り、大目標を設定することでストーリーが薄くなるのを防止しているのも特徴である。

ライバルのネモに導かれポケモンバトルの頂点を目指す「チャンピオンロード」。ペパーとの秘伝スパイスを巡る冒険のなかで家族関係を見つめ直し、人間とポケモンのありかたを探る「レジェンドルート」。はぐれ者たちとの交流を通して学園の問題を浮き彫りにする「スターダスト★ストリート」とアカデミーを舞台にバリエーションのある物語が繰り広げられ、学園青春モノらしい熱いテーマが描かれていた。そしてバラバラであった3つの冒険が収束し、パルデア地方の謎に迫る物語が展開されるのは面白い。序盤から張られていた伏線も最終的に鮮やかに回収され、ポケモンシリーズでもトップクラスにシナリオの完成度が高かった。特に本作の4人でマルチプレイができるというシステムを活かした、終盤のエリアゼロ探索時に仲間3人がわちゃわちゃ喋りながら冒険をしている様子は、こういうのがやりたかったんだと素直に感動した。今までもメインキャラクターが主人公を入れて4人というのはシリーズでよく見られた構図だが、今回は4人の子どもたちの旅ということで、ポケモンのモチーフの原点である『スタンド・バイ・ミー』に回帰したとも言えるだろう。特に平原を歩く4人とミライドンの姿が映し出されるストーリーのラストシーンは直球のオマージュのように思える。

 

魅力的で多様なキャラクター

学園が舞台ということでジムリーダーに加え、教師陣も多数存在し従来の作品と比べてもネームドキャラクターの数は多い。しかしポケモンのチュートリアルを兼ねた授業で教師の人柄を知ることができる。ジムリーダーもただ単にジムに行ってバトルに勝つというだけでなく、バトルの前にそれぞれのジムリーダーのパーソナリティーに沿ったジムテストが行われ短い描写であるが、効果的にキャラクターを描いている。四天王やチャンピオンも序盤から頻繁に物語に登場し存在感を放っている。

テンプレの性格付けをされたキャラクターは1人もおらず、ジムリーダーであれば発売前から人気であった動画配信者のナンジャモや、中性的な見た目のグルーシャ。教師陣であればイカツい見た目だが心優しい言語学教師のセイジや、クールなマッド気質の歴史教師レホール。四天王の関西弁の麗人チリはSNSでも非常に人気であり、どのキャラクターも個性的で魅力的だ。

また作中のモチーフの使い方も上手く、例えばスター団幹部のビワは女子プロレスラーの格好をした心優しき少女であるが、その彼女が「ヒールボール」を愛用しているのは、優しい性格とプロレスの悪役であるヒールの2つの意味にかかっている。またスター団を束ねていたマジボスを倒した際に「りゅうせいぐん」のわざマシンがもらえるのは星(スター)だけにニクい演出であった。

 

オープンワールド化した効果はいかに

本作はシリーズ初のオープンワールド化に乗り出した意欲作である。ゲームにおけるオープンワールドはそもそもそのゲームで何を表現したいかを表す手段であり目的ではない。本作は「探索・育成・対戦」というポケモンの面白さの根本に合わせてチューニングしてあり、例えば本来オープンワールドゲームであってしかるべきフィールドで発生するサブイベントなどはほとんどない。ただ本来サブイベントはキャラクターや世界観の掘り下げや探索のモチベーションを高めるためのものである。その代替として本作ではシナリオ以外にもキャラクターや世界観を掘り下げる手段としてアカデミーの授業や教師陣との交流などを実装している。もし本作にフィールド上で発生するサブイベントが大量にあったとしたら、それは逆に「ポケモン」というゲームの「探索・育成・対戦」という本質をブレさせる結果になっただろう。

そして通常のゲームであれば避けるべき障害としての敵が、「ポケモン」はその長い歴史のIPのなかで報酬兼目的と化しているのも特徴だ。そのため広いフィールドに新しいポケモンや多くのアイテムを置くだけでプレイヤーの寄り道へのモチベーションへと早変わりする。街道沿いに存在するトレーナーもフィールドにおける目的地のようなもので、ポケモンセンターでトレーナーを〇人倒すともらえる報酬もあり、トレーナーがいるから少しあっちに行ってみようという探索のやる気を高めてくれる。ポケモンは広いロケーションにポケモンとアイテムとトレーナーを設置するだけで、自動的に目標が発生しそれだけで楽しいのだ。

ただシナリオがオープンワールドとして有機的に繋がっていたかというとそうではなく、前述したとおり半リニアで進行するため、感覚としては従来シリーズの探索範囲が膨大でシームレスに広がっただけという印象が強い。進行を完全に自由に制御できるオープンワールドを期待していた人は肩透かしだと感じた人もいるだろう。

 

練り込まれていないシステムはゲーム体験を阻害しかねない

ここまで魅力を書いてきたが、さすがに無視できない問題としてパフォーマンスの低さが挙げられる。本作はオープンワールド化したことの代償としてあまりに低いフレームレートになってしまっている。探索中特にポケモンが密集していたり町中で人が多かったりするエリアでは動作がガクガクになってしまう。フィールドでは遠景が描写できておらず、遠くに見えるアイテムやポケモンが表示されないため、とりあえず適当にフィールドを巡りポケモンがいたりアイテムがあったりしたら回収というサイクルになりがちだ。何回も見るであろうメニュー画面やマップを広げるのも、レスポンスが悪くワンテンポ遅れるような感覚である。またソフトがダウンロード版であれば、データをSDカードではなく本体保存メモリーへ移動すれば、処理落ちはある程度軽減されるため気になる方は試してみてほしい。

BGMなどはさすがポケモンという思えるほどに、世界観にマッチしつつゲームを盛り上げており惚れ惚れした。特にスター団関連は疾走感と焦燥の中に叙情的な展開が見え隠れし、スター団の背景を連想させる楽曲ばかりで、ゲーム中に手を止めて聞き入ってしまったほどにただただ素晴らしいの一言だ。ただ四天王のBGMバグなどのプレイヤーの一度しかない初見体験を損なうような脇の甘さは擁護することはできない。

 

「ポケモン」が担う教育的意義とは?

私が『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』で一番素晴らしいと考えているのは、制作陣が作ったゲームの向こう側にいるプレイヤーをきちんと見据えていることだ。今回はプレイヤーが学生という立場ということもあり、教えを受けるという場面が多く見られる。「ポケモン」というIPはあまりに対象の層が厚く、私が4歳の誕生日に『ポケットモンスター 赤』とゲームボーイ本体を買い与えられ、初めてゲームという存在に触れ言葉を覚えたように、未就学児から小学生くらいのプレイヤーも多いだろう。そのような子どもたちにどのようなゲーム体験を提供するかが考えられている。

例えばゲームのチュートリアルを兼ねたアカデミーの授業ではポケモンの世界を深掘りするのと同時に、ポケモンの用語を交えたタイム先生の数学などを通して、実際の学校の勉強の端緒となり、幼いプレイヤーが勉強って面白い!と学習意欲を高められる構造になっている。またセイジ先生の言語学は言葉を覚えるのと同時に人との関わり方を伝える内容になっており、ハッサク先生の美術は生きていく上では直接役に立たないかもしれないが、自らが何を「美しい」と考えることは人生を豊かにすると言っている。こうした体験を通してプレイヤーを啓蒙しようという意図が見える。

シナリオのテーマも「友達は大切にしよう」「辛いときは人に頼ろう」「家族とはきちんと話そう」「いじめはよくない」「人を見た目で判断しない」といったありきたりなものであるが、それを最後まで誠実に描ききっており大人がプレイしても全く陳腐ではない。悪人も作中では存在せず、ただただ日常生活で大切な倫理観をプレイヤーと目線を合わせて表現しようとしているのが分かり、非常にメッセージ性が高い。

そして学校教育以外でも本作のフィールドに点在する学生が老若男女幅広く存在していることにはじめ、例えばチリが初めて登場した時も自然にハッサクが「彼女」と説明しただけで性別に驚く描写がない。明確にしなくてよい部分は曖昧にして、どんな姿をしていてもそのまま本人の個性として受け入れられている世界だ。そしてゲームの最初に設定する主人公の外見も(これは以前のシリーズからでもあるが)「あなたのイメージを選んでください」と表示されるのみで性別の強要はしないし、後からメイクや髪型でいくらでも外見をいじれる。

このことは教育の重要性やセクシュアリティや価値観が多様化する現代で、世界中の人間がプレイするであろう「ポケモン」というIPの持つ莫大な影響力を制作陣が自覚し、その上でゲームを通して何をプレイヤーに伝えたいかを精査した結果だと感じる。この姿勢を素直に賞賛したい。